2007年06月20日

生活のなかに良い物を〜その2・新製品発表

腕にバンドを装着し、家庭用電源コンセントにつなぎ、
スイッチを入れるだけで、確実にあなたの命を奪ってくれます。
車に篭り、炭を炊き、苦しみながら一酸化炭素中毒にならなくても、
実に、すんなり、甘味な夢を見ながら旅立つことができます。

わが社の商品の特長:
今現在日本国の極刑に採用されている電流を利用した椅子はわが社の技術が生かされています。しかしそれはとても高価なものであり、一般家庭に供給される電流では駆動しないものです。
しかし・・・交流電波を、特殊回路により強化した当社独自のハイブリッドAAA基盤により、家庭にあるコンセントからでも充分なエナジーをえることができ、短時間で、確実に、苦しみなく死ぬことが出来ます。
さらに死んだあとも、遺体は綺麗に保存可能!!!
電流により確実にピンポイントで脳細胞を死滅させる当社独自の登録商標・・・により、生きていると見まごうばかりのつややかさを保ったまま逝くことが出来ます。

またオプションとして専門のコーディネイターによる事前診断、
事前の積み立て、担保により、たとえあなたが独りこの世に生きるものであっても、あなたの残されたものに対する法的・事務的作業の一切を当社が適切に処理します。

当社は広く、葬儀屋、埋葬施設、寺社、教会その他、わが国に存在するあらゆる宗教とも密接な関係を保った唯一の機関です。
あなたの、あるいは親族の意に沿った、確実な葬りを約束します。

なにより、まず連絡ください。
死ぬことは簡単なことではない。
それは間違いです。
周到な準備を施す当社のような機関にかかれば、死は甘味な夢となんら変わることのないものです。
専門家の演出する素晴らしい、演劇的世界であなたの生を終局させます。
あなたは夢を見ながら、心地よく”生きるという業苦”を脱することができるのです。

日本国の法律・・・法・・・条に基づき、
あなた自身が当社製品を購入し、自らの手でスイッチを入れるという作業が必要です。
最低限上記作業ができる方に限ります。

連絡先:東京都・・・区・・・4-8-18 ライフ・クリエイトビル3F、03-3445-・・・・
24時間受付メールオーダー、質問はこちら
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2005年05月11日

あなたをミステリへいざなう〜タイトル決める気アンのか?

何者かがカバンを持ち出した経緯はといえば・・・
何の足場もないところから2階まで行き着き
かなりの厚さのある窓のガラスを切り取り、
そしてそれは、すべて日中に行われたのだ。
そこまでの事を行う執念。
これは並み大抵ものではあるまい。

あんなものに何か価値があるとは思えなかった。
はなからゴミのようなものだと思っていたので、詳しく中を見ることもしなかった。
私が見たものといえば、たどたどしい走り書きのような野口の手記と
彼の名刺、そして、健康増進センターのアンケートのような束だけだ。
なくなってみると果たしてあの中に特に重要な何かがあったのか。
詳しく、しらみつぶしに調べなかったことは悔やまれる思いもある、
単なる好奇心ではない。私が陥った罠の種を見極めたいのだ。

なくなってほっとした気持ちがあるのも事実だった。
諸悪の根源はあのカバンなのだ。
ほんの一時私の周囲に波風は立ったが、かつて存在しなかったと思えば
これからの私の生活も以前のような平穏が訪れるだろう。

平穏・・・
生きる事とは私にとってゆっくりと、しかし着実に死へ到る歩みでしかない。
何も起こらず、だが絶えず不満を抱えながらも朽ちていくのだ。

かつて陽のあたる場所にいたと思えたこともあった。
愛だとか恋だとか、かなりパズカシイ単語を口にした事もあった。
しかしある事件により、私も地に堕ちた。
映画の中のアラン・ドロンや、モンゴメリークリフトのように・・・

女は死んだが、私は生きながらえてしまった。
それは他人からみれば陳腐なソープドラマの一場面でしかなのだが、
そんなドラマのようなことが実際起こるとは、誰にとってもなかなか考えにくいものだ。

かつて存在したカバンは一時私の所有するところとなり
そしてまた何者かに奪い去られた。
だが単純に無くなってそれで終わりとは思えなかった。
物語の序は終わった、そしてここからが本番ではないのか、
そういう思いも芽生えてくる。

また悪い季節がやって来る予感がした。
人の感情には明らかに起伏がある。
私の心が鋼のように強くあれば恐れるものは何もない。
それがたとえいわれのない中傷であっても、圧倒的な力による支配であっても・・・。
ひとつの狭い完結した円環の中で生きていくのは、私にとってむしろ心地よいことであり、
そんなものどもは、はなから存在しない物として打ち捨てておくことはできる。

しかし今日はいけなかった。
多少なりとも身の危険を感じ、少々脆くなった気持ちを抱えていた。
泰然自若と構えることができなかった。
動いていなければ、襲ってくる不穏なものを打っちゃる事はできなかった。

そしてまたここに来てしまった。
もう一度おかみに会って今度は無理にでも愛想を良くして、少しでも事情を聞きたいと思った。
飲み食いした代金を払う必要もある。
だが、自分でもわかっている。
そんな理由付けはあとからとってつけたようなものだ。
私は女に会いにきたのだ。

おかみはいなかった。
代金を払いに来たんだが・・・
私の言葉にはすぐに答えず、女はカウンター奥へと私を促した。

「何しに来たか分かってるわ・・・でもあなたは知らないほうがいいわ・・・。
知ってしまったら、そこから逃れられなくなってしまう。」

自宅に侵入され、刑事に付きまとわれ、私はもう充分この事件に踏み込んでしまった。
幸い私には失って困るような現世への未練はなかった。気持ちは決まっているのだ。

「私も同じようなものよ。何も失うものはないんだわ。」
女はそこでしばし逡巡し、しばらくして言葉をつないだ。
「ホントならわたしもママがしたように、あなたをなんとしても追い出すべきなんでしょうけど・・・」
「・・・」
「私はてんびん座なのよ。いつもいろいろな事を秤にかけて生きているんだわ。」

不意に、そして久々に訪れたすっぱさにも似た感情を抑えることができなかった。
その時同情という感情は、愛情と云うものに非常に近いことに気がついた。

第一回:http://stylecouncil.seesaa.net/article/1750615.html
第二回:http://stylecouncil.seesaa.net/article/1849753.html
第三回:http://stylecouncil.seesaa.net/article/2143660.html
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2005年02月25日

不定期連載〜あなたをミステリにいざなうその三〜そろそろタイトルきめろや・・・

「・・・だな」
奴はもう一度たずねた。
「ちょっと聴きたい事があるんだが」 
さてどう返答しようものか、ほんの暫時であったと思ったが、
相手には充分長いものだったようだ。
この私の戸惑いは、相手には不敵さにうつったようだ。

「何もしゃべらないつもりだな。まぁそれもいいだろう。」
「野口・・・についてはしっているな」
断定的な言い方だった。
一度も面識はないがまったく知らないわけでもない、
厳密に返答するなら果たしてどう言えばいいのだろう。
「ある日駐車場に彼のかばんが落ちていて、それは今私が保管している。私には価値のないものなので、刑事さん引き取ってください」とでも言えばいいのだろうか。
またしても逡巡している私の返答を待たずに
奴は表情崩さず私を見据えるようにして続けた。

我々はある事件の重要参考人として野口を追っている。
その野口が懇意にしていた人物として真っ先にあがったのがお前だ。
端的に聞くが今野口はどこにいるんだ。

奴が野口某の居所を私から引き出そうとしているのだけではないことはわかる。
奴は私の事件に対する関与の可能性を探っているのだ。
何らかの物的証拠により私と野口・・は互いに知り合っているというのは、
奴らにとって既製事実のようだ。
だが私の記憶のどこを探っても、野口といえば福島出身の偉大な医者しか思い浮かばないのであるが・・・

陽は傾いてゆき部屋の窓から一筋の光を差し入れた。
それは儚いオレンジをまとってはいたが、頼りないほど淡いものだった。
我々といえば部屋の入り口で立ち尽くしたまま、互いに腹を探り合っている。
もっとも座ろうにもそのスペースはなかったのだが・・・

今では珍しい天然記念物的ともいえる角刈りに骨太な短躯。
頬にある傷もそうだが、その射るような瞳はカタギ者にないものを感じさせる。
暴力に染まっていることも感じさせるが、懐疑に凝り固まったようなまなざしでもある。
そのくせどっしり構えているのではない、
手のひらや両足を絶えずせわしなく動かしている。
案外小心者なのかもしれない・・・そんなことも思っていた。

奴はヤガミと名乗った。
もとよりお前から重要な事を聞けるとは思っていない。
しかしそのうち参考人としてお前を招集する準備はある。
そのときにはこんなふざけた態度は許されないはずだ。
奴はそういった。
私にしてみればふざけた態度をとっている自覚はなかった。
いつものように、私の外見やら態度が相手に相当な不快感を与えていたらしい。

駅に戻る途中この街の飲み屋のうちの一軒に吸い込まれた。
冬の早い夕昏であるが、まだ日も落ちぬ頃、こんな早くからほとんどの店は開いていた。

nogenomiya.JPG

客のいない狭い店内、だされたビールをなめながら通しに箸を通わせているうち、
店の者が話しかけてきた。
「今日も寒かったね」
一言だけ相槌を打つ。
そんな態度の人間に常連となる可能性を見出せなかったのか
あるいは早くもこのマにうんざりしてしまったのか。
おかみは早々に引き上げもう少し若い女が出てきた。
健康的な感じが強く漂う女だった。
暗い店内であっても、つややかな肌が場末のスナックには似つかわしくないようにも思える。
健康的という彼女の印象に何かの啓示を得て、
”・・・健康増進センター”というものを知っているかと、私はたずねてみた。

「あんたナニもんだい!」突然大声が響いた。店の奥からカウンターに歩み寄り、急に真顔になったおかみが叫んでいた。
アンタといわれるのも何年ぶりだろうか、
そして私は犬コロのように店を追い払われた。
揚げ物一品とビールをいただいただけだったが、代金も払わず、おかみに追い立てられるように店を出た。

家に至る道すがらぼんやりとした頭で考えた。
今は状況を見極めるときだ。
もとより警察などは恐れてはいなかった。
たぶんに理不尽さがあり、時に逸脱するにしても法に基づき彼らは行動している。
しかしあの部屋のものどもをあそこまで破壊したものは、
理屈抜きの力の発露だった。
個人の力に対するのであれば私とて、恐れるものはあまりない。
しかしあの部屋を蹂躙したものは、単純な暴力とだけでは片付けられるものではない。

すでに矢上に会い、問答を続けた後ではあるが、
私はこの一連の流れにはまったく関係ないことを示しておく必要もある。
それにはこの事件の端緒であるカバンを始末しなければならない。
面倒ではあるが、交番にでも届け、その詳細を語る必要がある。
ある日カバンを見つけ中をのぞき野口某のものであると知る。
落し物として届けようとしたが、このところ忙しくかないませんでした。
今日持ってきたしだいです。など・・・

そんなことを考えつつ、家のドアを開けた。
玄関脇の居間の入り口、ポストから拾い出したラビッシュをそのまま放り込むカートンボックスがおいてある、そこに立てかけたはずであった。
しかしそこにあるはずのカバンを認めることはできなかった。
廊下の奥、道路側に設けられた浴室の小窓は分厚いガラスのノブの部分だけ切り取られ
そこから冷たい風が吹き込んでいた。

それは巧妙な仕事だった。〜続く

その一
その二
posted by renn at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年02月07日

あなたをミステリーへといざなう2〜いまだタイトル決まらず

私の住む場所からひとつ駅を隔たり、
潮のにおいのする街にやってきた。
冬にしてはやけに暖かい日だった。
場外馬券場に向かう、少し崩れた装いの人々の群れにもまれ歩んでいることに我慢ならず、ひとつ裏道に入った。

noge.JPG

もとは白い毛だったのだろう。汚れ、さらされ、くすんだ毛をまとった、やけにおっとりした猫が私の前方を横切り、傍らの青いポリバケツに擦り寄っていく。
よく見ると彼は負傷しているらしく、片目は開いていなかった。
もう失うものなど何もない、そんな開き直った、ふてぶてしささえ感じられる。

駅の向こう側には最新の開発地域がある、
しかしこちら側といえば、高度資本主義の流れから取り残されたような様相がいたるところで散見できる。


nogesaka.JPG
坂の頂まで上り詰め、港方面を望めばそこに見えるのは、日本一高いといわれるビルディングの威容だ。
その対比はいやがおうにも目立つものだ。
みなとの新開発地区内にあれば他の近代的建造物とともに調和を見せるのだが、ここではあたかも合成写真であるかのように、切り取って貼り付けたようにみえる。

そんなビルに背を向け、喧騒からも次第に遠ざかり、ひとつ丘を越えたどり着いたのは、
モルタルに、拭きつけ塗装だけの外観を持つ雑居ビルだった。
すべての窓には格子がかけられている。
内部に踏み入ると階段や踊り場はやけに広いものだった。陽はここまでいたらず、かなり暗い。
2階の廊下を奥まで進み、扉の前に立った。
表札に「×××健康増進センター」の文字が認められる。

ここに間違いない。

インターフォンつきの呼び鈴を押す。
返事はない。3度ほど試みても同じことだった。

郵便受けから中の気配を窺うも、見えるのは無機質で平坦な下足エリアのコンクリだけだ。
試みに、その重そうなドアノブをひねってみた。
開くとは思っていなかった。しかし・・・

不思議なことだが、この瞬間まで危険なところに踏み込んでいるという考えは、一切持たなかった。
彼の走り書きには何かしら私をひきつけるものがあった。
稚拙な表現の中にも実直なものが感じられる。
それは、私が持つものとは対極にあるもの、
私が求めても、おそらく永遠に得られないものであろう。
始まりは、戯れのような些細な心の揺れだった。
野次馬的な好奇心ともいえる。それは平凡な日常にイベントを求めるような行為だったのだろう。
しかし何かしら純なものがあったのも事実だ。
もし彼が窮地にあるのなら、少しでも手助けになるのなら・・・
わが生涯において、ほとんど最初にして最後の
義侠心といえるようなものが、沸き起こっていた。

それが当然のことでもあるかのように、何の違和感もなく扉は開いた。
埃のにおいは感じられない、
つい今しがたまで人がおり、活動していた生活の余韻は、感じられる。

一歩踏み込み部屋の全貌を目の当たりにし、ようやく私の体に緊張が生まれた。
この部屋のすべての構成物は本来あるべき場所にはなく、ぶちまけられ、破壊しつくされていた。
テーブルは逆さになり、椅子は足を折られ、テレビは画面を割られている。
そこには圧倒的なまでの悪意が感じられた。
この造型を目の当たりにし、感慨の余韻に浸っている暇は、私には与えられていないようだった。
呆然と立ちすくむ私の背後に人の気配を感じた。

「・・・だな、やっと会えたな。」

紛うことなく私の名を呼んでいる。その声にちょっとした違和感をおぼえた。
こんな場所で不意打ちのように名を呼ばれたから、というわけではない。
このように私の名前を気安く呼ぶ人間は数少ないのだ。
畏怖するか多くは敬遠するかだろう。

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、」
純粋にものを尋ねる調子ではない。
振り向くと、力を頼りにする者のみが持つある種凶暴な顔に行き当たった。
彼の手には、暴力的集団と、公権とを分かつ唯一の証
黒皮の手帳が握りしめられていた。

つづく
あなたをミステリーへといざなう−前回

その3UP
posted by renn at 01:17| Comment(2) | TrackBack(0) | 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月28日

不連載小説〜あなたをミステリへといざなう

−フィクションです。ほとんど実話ですが、ー

物事の発端なんていつも些細なものだ。
何事かが起こる時、その兆候は濃霧の中でかざされたマグライトみたいに微かで
嵐の中でささやかれた言葉のように頼りない。
それを確実に知覚するなんてことは誰にとってもほとんど奇跡に近い。
人生に必ずやって来ると言われる2度の大きなチャンス
それさえも見極めることは至難のことだ。
池に落ちた羽虫のように、流れるままに、
その時は必死になって、がむしゃらにもがいているのが常だ。
あとになって本当にツキを賜った人間だけが
成功やら財産やら名声を手に入れているのだ。
人生の先達は今日も私に諭す
「流れる石のように」と

いつもの居酒屋で晩飯も兼ねて、かなりむさぼり食らったあと。
やっとたどり着いた駅から這うようにして、我が家へと至る。
今日もかなり酩酊してしまっている。
家の前の駐車場を横目で見、いつものように我が愛車の無事を確認する。
敷地脇に設けられた街灯の照らす光の域から僅かに隔たっているが、
シルエットのように浮かび上がっているその姿に特に変わったところはない。

しかしいつもは軽く流してすぐ前を向く視線は、フロントホイールの先わずか一メートルのところ、踏み潰された空き缶の、鈍い光りを捉え、動かなくなった。
−またタチの悪い高校生どもが、この辺で車座になり、散らかし、捨て置いた名残なのだろう。−
一気に湧き上がり沸点へと達してしまった私の怒りを鎮める術もないまま、
重い頭をかかえ、かなり憂鬱になりながらも、へしゃげた缶に一蹴を加えようと、駐車場へ一歩踏み出した。

しかし躍り出てみると、そこにあったのは缶だけではなかった。
先には撒かれ、散らかされた紙が数枚散見できた。
それは転々と、あたかも餌を少しずつ、間隔をおいて配置し、獲物を核心へと導き、
罠にかける時のあの方法のようだ。
ここには何者かの作為があるのか・・・
急速にわきあがる不穏な気持ち。
しかしそれを超える興味を抑えることができず、
散乱した紙くずに導かれるように我が家の裏へと来てしまった。
人一人が横になりやっと通過できるほどの余白だが、アスファルト敷きのやけに整った空間が広がっていた。
何年も住んでいる自分でさえ足を踏み入れたことのない場所だった。
新鮮な感覚を得たのも事実だった。
もちろんそこに人がいるわけはなかった。
そのかわり茶色の書類かばんが、やけに丁寧に置かれていた。
あたかも家の壁にもたれ、体を丸め座っている人のような存在感のあるものだった。

ブリーフケースと呼ばれるもの。
留め金の下にはロゴがあり
イタリア語ではあるが、特定のブランドではない。
素材も合成皮を使った粗末なものだった。
とても若者がもてるような代物ではない。
それが使用されるべく想定された容量をかなりオーバーし、
丸くなりパンパンに膨れている。

あけてみたいと積極的に思ったわけではなかったが、危険物でないことぐらいは確かめておく必要がある。酔っていはいたが、そのへんは割と冷静だったよう気もする。

×××健康増進センター
営業員
野口・・・
内部の最上部に名刺を入れるスペースがあり、そこにあった紙片にはそう書かれていた。
おびただしい数の書類の一番上に、日記のような雑感のような、そんな走り書きが粗末なノートの切れ端に書きなぐられていた。

「きょうも会長の言葉をきき、かんどうをおぼえました。
人を動かすには熱意と誠意と実直な態度がひつようなのだとおもいます。」

筆跡から受ける印象が大きく左右したのだろう、なんとも稚拙な感じを与えるものだ。
しかし不思議と反感は覚えなかった。
ここには要領は悪いが、実直な、正直そうな人間の気配も感じられた。

ざっとみたところ世間一般の人間にとって価値のあるものはないようにおもわれた。
ハードカヴァーの本と大量の書類。
それは会員という者たちから採られたアンケートの束のようなものだった。
しかし本人にとってみればことのほか大事なものなのかもしれない。

このカバンごと明日、駅近くの交番に届けようか・・・
そうも思ったが、通勤の途上で割く事のできる時間はあまりにも少ない。
実際、カバンだけ置いてすぐに立ち去るわけにも行かないだろう。
住所、名前を聞かれるだろうし、発見した状況も聞かれるかもしれない。
すでに大きくその口を開け、中を物色してしまったような状況だ。
これが引ったくりの手により野口某から奪われたもので、
その中には銀行から引き出されたばかりの・・・万円が入っていたはずだが・・
後に嫌疑を受けることもありうる。
少なくとも自分では善良であると思っているが、その風貌やら容易に他と迎合しない頑迷さ、偏屈さにより、世間では模範たるべく市民とは認められていないようだ。
警察に疑念を抱かせる要素は多分にある。
しかしそれだけが私を押しとどめる理由ではない。

何かが私を捉えるのだ。
このカバンは単なる落し物ではないのだという予感のようなものだ。

結局週末になり私は名刺に記された住所に直接行ってみることにした。

つづく・・・

その2
posted by renn at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする